※ここは、LX3を使いこなすための独自のアイデアを思いつくままに列挙している記事です。
※あくまで素人の趣味的考察なので、間違っている可能性があることがあります。
このカメラについてのテストレポートを読んでいると、レンズについて「何らかのソフト的補正をしているのではないか?」とかかれた物を見かける。
参考:【新製品レビュー】パナソニック「LUMIX DMC-LX3」 - デジカメWatch
で、せっかくなので、この「ソフト的補正」で何をしているのかな? と言う“想像”をしてみました。
※あくまで「想像」です。カメラを外してレンズ単体のテストが出来ないので、検証には限界があるし、僕には細かい検証をする能力もありません。
※光学に関する基本的な情報は前述の「カメラマンのための写真レンズの科学」を参照しています。この文献の第三章がレンズの収差に関する基本的事項を網羅しているので、詳しい内容はそちらを参照してください。
「補正」できるものは?
大まかに言うと、画像の劣化を発生させる要因としては、
(1) 手ブレ・被写体ブレなど、光学に関係ない要因
(2) 光波の回折など、光学には関係するがレンズ等では解決できない要因
(3) 光学レンズの材料の脈理、レンズの編心など、製造誤差に関する要因
(4) レンズの収差と呼ばれる、レンズを通った光が一点にうまく収束しないことによる要因
LX3の場合、
(1)に関しては「O.I.S.」と言う光学手ブレ補正機構を内蔵している事は分かっています。
(2)に関してはここでは説明を省略します。
(3)に関しては個別の製品で見てもしょうがないのでこれも省略します。
(4)について、以下、詳しく考えます。
となっています。レンズ交換式カメラ(ほとんどは一眼レフタイプ)では、レンズ情報(がない場合もある)を基に電子的収差補正をする方法が知られていて、その機能を搭載したソフトがあること、また他社製のコンパクトカメラでは「収差補正をする前のデータ」と「電子的に収差補正したデータ」を分けている場合があるのに比べて、この製品はその区別をしていない(少なくとも公表されていない)こと、このカメラの出す映像があまりにも補正されたように見える画像なこと、等から冒頭のような憶測が流れているようです。
レンズの収差
では、具体的に「電子的に行える収差補正」にはどんなものがあるのでしょうか。
まずは、そもそも「レンズ収差」と言われる物にどのような物があるか、と言うことを簡単にまとめます。
一般にユーザに知られている収差は、以下の7収差です。
(1)球面収差
(2)コマ収差
(3)非点収差
(4)像面湾曲
(5)歪曲収差
(ここまでの収差を「ザイデルの5収差」といい、単波長光で発生します)
(6)軸上色収差(又は横色収差)
(7)倍率色収差(又は縦色収差)
(この二つは、複色光で発生します)
これらは、様々に図示できます(当面、図は省略)。また、ザイデルの5収差に関しては、幾何光学の三角関数を三次までテイラー展開することでも表現できるようです。
また、これらの収差は光軸(レンズの中心を通る軸)で発生する収差(球面収差、軸上色収差)と、撮像がある「二次元の面」であるために発生する収差(コマ収差、非点収差、像面湾曲、歪曲収差、倍率色収差)に分けることがあります。一般に、撮像面が大きいほど(あるいは画面の中心から外れるほど)、面上の収差は大きくなっていきます。
あるいは、これらの収差はレンズの絞りを絞ることで減少する、あるいは目立たなくなる(二次元の面に奥行きを定義できるため)収差(球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、軸上色収差)と、絞っても変わらない収差(歪曲収差、倍率色収差)があります。
また、これらの収差は被写体までの距離(あるいは結像の倍率)が変わると変わっていくので、一律に補正できる物ではありません。
各収差の性質、電子的補正の可能性
次に、各収差の簡単な性質とその補正の可能性を考えます。
まず、(1)球面収差、(6)軸上色収差は、発生が大きいと画面全体に影響を与えます。球面収差が大きい場合、画面全体に解像感のないボヤけた画像になり、軸上色収差が大きいとボケの輪郭に色滲みが発生する(パープルフリンジの一要因とも言われているらしいが、パープルフリンジそのものは色収差だけが原因ではないらしい)と言われています。これらは、電子的補正は出来ないと思います(できるかもしれませんが凄く複雑な計算が必要だろうと思います)。DMC-LX3の場合、『解像感が甘い』等という評価が多いことや、レンズが明るいことから、これらの収差は大き目かもしれません(とは言え、絞って改善するという話も聞かないので、解像感の甘い理由をこれらの収差に断定もできない)。
次に、(2)コマ収差、(3)非点収差は、発生が大きいと画面の端に行くほど画像の流れ・滲みが大きくなります(厳密には、球面収差や軸上色収差も画面端に行けば増大しますが、ここでは無視します)。この収差の発生具合はよく、点光源(街灯や星など)の写真を撮るとよく分かると言われます。また、これらの収差も電子的補正は出来ないと思います。DMC-LX3の場合、夜景等を撮影しても画面端での流れが少ない・通常の昼間の写真でも画面端での流れは比較的少ないことから、この収差は「レンズレベルで」よく抑えられているようです。
次に、(4)像面湾曲は、あまり問題ないと思います。そもそも、コンパクトデジカメでは焦点深度が深いだろうこと、像面湾曲が大きいために困るような撮影(平面の撮影)が少ないだろうこと、コンパクトデジカメのピント合わせは直接撮像面で行っていることから、あまり重要でないのかなと思います。
最後に、(5)歪曲収差と(7)倍率色収差は、電子的補正で補われている可能性が高いと言われています。
簡単に言うと、歪曲収差が大きい場合、真っ直ぐな線が曲がって写るようになります(座標変換の写像が原像に対して相似でない)。特に画面の端に行くほど歪みは大きくなり、また広角のレンズの場合、樽形歪曲(写像の像倍率が中心から外れるほど小さくなる)が発生し易く、望遠のレンズの場合、糸巻形歪曲(写像の像倍率が中心から外れるほど大きくなる)と言われています。
倍率色収差に関しては、複色光で周波数の異なる光で屈折率が違うために像倍率が異なる場合に発生します。また、周波数が異なる光で歪曲収差の傾向が違う場合も同じような収差が発生します。
ここで、歪曲収差も像倍率収差も、基のレンズの特性が分かっていれば、比較的簡単に電子的修正が行えます。予め、そのレンズにおける原像→写像への変換を記録しておき、実際の映像を撮影した後で逆写像を求めればいいからです。歪曲収差の場合、そのまま逆写像を求めれば良く、像倍率収差の場合はCCDの原理に基づき、ベイヤ型の各素子の色の周波数に関して同じ事をすればいいからです。
ただし、このカメラの場合は(あくまで推測ですが)広角側で樽形歪曲が発生していると予想され、それを方形に復元するには基の画像より大きな範囲の情報が必要になります。
(訂正、周辺の情報が必要なのは糸巻形歪曲を修正する場合でした。ズームレンズで言うなら望遠側で糸巻形歪曲が発生し易いので、その修正の際には必要になるかもしれません。)
CCDの実際の画素数と記録画素数は違う場合が多いらしく、一部端の画素はこの歪曲修正をするための演算要素となっているのかもしれません。
このカメラの場合、マルチアスペクトCCDと呼んでいるCCDが用いられているので、実際に搭載されているCCDは各縦横比率で保存される画像のどれよりも大きなサイズのCCDを搭載します。仮に、各画素を記録するために最低限必要なサイズのCCDを搭載しているとして、実際のCCDの様子がどうなっているかを以下の図1で示しました。黒枠が実際のCCDサイズ、RGBの各枠がマルチアスペクトの画像を取得するための場所になります。
【図1:CCDと各比率の画像(全体図)】
【図2:CCDと各比率の画像(拡大)】
さらに右上の角を拡大したのが図2です。これを見る限り、3:2比率の画像の場合、CCDのフチに対してかなり余裕があり、歪曲を補正するための情報をかなり取得できそうです。4:3や16:9の場合、補完するための外側の情報が不足することになりますが、ここにもCCD自体に余裕シロがあるのか、補正しきれないのかはよく分かりません。僕の場合は基本的に3:2を使うので、悩む必要はなさそうです。